隈研吾展@高知県立美術館 行ってきました −隈研吾建築の魅力について その2−
高知県立美術館で、あの有名な建築家・隈研吾さんの個展を開催中です。
で、 興味はあるけど、建築やデザインについて全く分からない私。
事前に隈研吾さんの建築について、下調べをしてみたんですよね。↓
で、今回、実際に個展を見に行った内容と、改めての隈研吾さんの建築の魅力について、書き留めておこうと思います。
- 模型の展示が素敵でした
- 個展のタイトル「ネコの5原則」が、なかなか奥深かった
- 「地獄組」に影響を受けたデザインのリアル木組み
- 被災地での建築のインタビュー映像で分かったこと
- 梼原町の隈研吾建築作品を案内してくれるツアー企画もあります
- 隈研吾さんの本やグッズも
- 隈研吾さんの建築作品の魅力を改めて
模型の展示が素敵でした
今回の隈研吾展、隈研吾さんの国内・海外の建築作品の模型がたくさん見られたのが良かったですね。
1/100とか1/50サイズの模型が展示されていて。
国立競技場の模型もありました。
自然の景観の中に溶け込むように建物がデザインされている感じなんかも伝わってきました。
今回の展示、撮影OKなので、建築デザインされている方にはありがたいでしょうね。(^ ^)
ちなみに、数々の隈研吾建築作品は、隈研吾さんのホームページでも見られます↓
個展のタイトル「ネコの5原則」が、なかなか奥深かった
建築作品鑑賞に欠かせないのが、「ネコの5原則」への理解だと思います。
実際に、個展に足を運んで、展示されていた5原則の解説をそれぞれ読んでみました。
その率直な感想は、「これはもう、哲学だ!@_@;」です。
美術鑑賞では、「何を描いたのか?描こうとしたのか?」っていうことを、時代や個人の背景から観ようとすることがありますが。
アートとしての建築作品もそれと同じで。
「何を建築したのか?建築しようとしたのか?」っていう観点の一つとして、この5原則の解説はとても面白かったです。
この5つの原則について、私の理解を以下にまとめてみました。
1)斜め
人間は、大昔に地面を水平にならして農業をスタートさせたわけだけど。
そのことで、人間は同時に、効率化の伴った工業的・都市的なものへの一歩も踏み出したわけで。
その中で、建築では、「水平な大地」に対して「垂直な壁」を立てながら、建物というハコを創造していくことになります。
そして時を経て近代において、1960年代のフランスで「斜めの建築」っていう原理があったらしくて。
田舎や農業の「水平原理」と、都市や工業の「垂直原理」という、2つの対立する原理を、高い次元で統括したのが、「斜めの建築」です。
この「斜めの建築」が、当時の脱工業化社会の建築原理だったそう。
隈研吾さんは、この「斜め」というのを、さらに高次化・抽象化させて捉えているようで。
単に「タテ・ヨコ」に対する斜めではなくて、「自由である」という思いでの「斜め」の原則を大切にされているようです。
その「自由」とは、「かつて大地はもっと自由な場であった」というような意味かと。
農業を始める以前の、「自由な大地」への回帰を図るために。
または、建築物というハコに拘束される以前の、自由な狩猟採集時代の人間の生き方への回帰を図るために。
こうした思いがあって、隈研吾さんは「斜め」という原則を扱いながら、今後の建築を考察しているようです。 そんなに深い「斜め」だったとは。(笑)
2)時間
20世紀初頭から、車とか飛行機とか、高速で動くものが登場して、建築の世界でも「運動」とか「運動としての時間」をどう建築で表現するかがテーマだったりしたんですって。
この近代的で未来志向な時間の感覚っていうものを、建築でも表現しようとしていたんでしょうね。
一方、20世紀後半以降では、「ボロ建築賛美」ってのが登場して。
「ボロ建築賛美」とは、建物をボロくする・エイジングさせるという手法によって、建物というモノを弱くさせると、その空間は楽しくなり、人間のものになる、という考えのようで。
モノを劣化させてアンティーク化させていくというのは、過去への時間を大切にしている、過去志向のようなものでもあって。
そこで、隈研吾さんが現在見出している「時間」というのは、単に未来志向でも過去思考でもなくて。
「現在」の中で、別々の色んな場が、クルクルとゼンマイのように回って動いていると、いう時間感覚のようです。
このゼンマイ構造が、物質と時間を解け合わせ、時間はそれぞれの場所で独自にまわっている、っていう、なんとも不思議で面白い感覚。
いっぱい並んでるゼンマイの絵とか見ると、平面に描かれているだけなのに錯視でぐるぐる回って見えて、まるで動画を見ているように感じるけど。
「今・ここ」にいるはずなのに、時の流れを感じるような、そんな不思議な感じに似てるかな。
そういう流動的で奥行きのある感じを、建築に映し出そうとしているのかなー、なんて思いました。
3)孔
孔=穴、英語でhole。
建築物の孔は、例えば中庭だったり、棟と棟の間の隙間だったり、建物の中にある空間・空洞だったりします。
建築物の孔は、その周りにある何かと何かをつなぐものとして機能します。
街と里山をつないだり、人をどこかからどこかへ導いたり。
その建築物が、人や物をどうつなぐかを考える時、孔を介して考察するようです。
また、様々なことを隠し、守ることも、孔の働きなんだそう。
そいうえば、子供って、階段下や机の下、押し入れの中とか屋根裏、隣の家との狭い隙間の通路などなど、孔っぽい空間に隠れたり、その「孔」的な場所をつたって別の場所に移動したりして遊びますね。
この「孔」的な場の存在について、隈研吾さんは「コロナ後は建築物というハコによって守られるのではなく、穴によって守られる時代」になるだろうと。
確かに、コロナ禍の現在では、密閉されたハコの外である、公共スペース、つまり公共の場という「大きな孔」で過ごすことも、重要な生活要素になってきていると感じます。
4)粒子
「粒子」との出会いは、心理学者のジェームズ・ギブソンの「アフォーダンス理論」だったそうで。
建築やデザインで「アフォーダンス」っていうのは、モノの形状とか色とか材質とかで、人が「こう扱えばいいんだね」って気づけるようなデザインのことをいうらしいですね。
そもそも生物って、ツルツルで手がかりのない壁や床の空間では、奥行きを把握できなかったり、速度感や方向も知覚できなかったりして、ストレスに苛まれるんだそう。
だから、質感が感じられるってことは、生物が生きていくことや、人間がストレスなく暮らしていくためには、大切な要素みたいで。
その「質感が感じられる」っていうのが、「粒子のある空間」と隈研吾さんは語られているんだけど、そういう空間でこそ、生物は棲息することができるんだそうです。
で、隈研吾さんは、「粒子の集合体」という大きな塊として建築を捉えて、デザインをするんですって。
すると、「建築物vs建築物の周り」という区別がなくなって、全てが「粒子の集合体」として見えてくるんだそう。
この見方で建物を見ると、また違ったものに見えそうですね。
また、がちっとした固い建築物が人間の身体になじむよう、「粒子」のエッジを薄くしたり、丸くしたり、面をとったり、そんな工夫や気遣いがあると、身体と粒子としての建築物がコミュニケーションが取れるようになるんですって。
さらに、隈研吾さんの恩師・原広司さんの理想とした「離散的空間」っていうのがあって。 粒子化された状態は、この離散的空間に似ているんだそうです。
「離散的空間」っていうのは、都市計画レベルでの建築デザインのようで 。
個人が自立していて、また集合することも自由、という都市モデルなんですって。
「個人と集団が対等である社会」を実現するための考え方みたいですね。
粒子的な建築デザインによって、人はヒエラルキーとかグルーピングに縛られることなく、自由に空間を過ごすことができるとのこと。
建築デザインって、その時代・これからの時代を生きる人間の生き方と大きく関わっているんですね。
5)やわらかい
建築って、そもそも固いものですよね。
だから、建築の「やわらかさ」は議論されることがなかったんですって。
でも、隈研吾さんは、“「やわらかさ」こと生物としての人間にとっては大事なこと“とおっしゃってます。
今回の展示の1つのテーマである「ネコの視点」で、建物の質感について説明されているんですけど。
“固くてツルツルした無機質な建築の表面に比べ、柔らかかったりざらざらしている表面は、ネコにとっては「応答してくれる友人」“なんですって。
やはり、自分の周りのモノの質感っていうのは、「自分がどう過ごしたらいいのか」ってことへの手掛かりだったり、影響力になっているんですね。
ネコの視点から
隈研吾さんは、このコロナ禍で、建築物というハコは人間を幸福にしないと教えられたと語っています。
これまでは、ハコの中で働くことで、効率が高まり、安全性も確保できていたのですが。
コロナによって、「ハコの中は危険」という状況が起きたわけです。
で、隈研吾さんは、ハコから出た公共空間を見ていこう、となったようで。
そこで、自由気ままに街で過ごす半ノラのネコの視点で街を見てみる、というプロジェクトを行ったと。
ネコの移動、お気に入りの空間、生活の仕方、など、ネコの目線で都市を見直すと、街が違うものに見えてきて、多くの可能性と情報があったんですって。
また、ネコの自由な空間の使い方について。
18世紀のジャンバッティスタ・ノッリが定めた「公共空間vs私的空間」という分割法があるんですけど。
プライベートとそうでない社会的な空間をバチっと分けたライフスタイル、ということでしょうか。
隈研吾さんによると、“ネコは自由にその分割を乗り越えている“と。
ネコにはオフィシャルもプライベートもない、いつでもどこでも「自分の時間と空間」を、きっと生きているわけで。
公共空間であっても私的空間であっても、そのハコとハコとのわずかな隙間を行き来して、そこを自分のベースにもして、自分なりの心地よい生活をしているネコちゃんの自由さ。
このネコちゃんのライフスタイルが、人がハコとハコとの隙間である「公共空間」を自由に過ごすことへのヒントになっているようです。
「地獄組」に影響を受けたデザインのリアル木組み
展示室から出て別の展示室へ移動する通路に、木組みがどどーんと展示されていて。
確か、スターバックスコーヒーの太宰府天満宮表参道店のデザインで使用された木組みだったと思います。↓
この木組みのデザイン、高知県梼原町の「雲の上の図書館」でもふんだんに使われているんですけど。↓
この木組みのデザイン、日本の伝統的な木組みの一つ「地獄組」に強く影響を受けたデザインなんですって。
地獄組ってネーミングがすごい。(^ ^;)
被災地での建築のインタビュー映像で分かったこと
別の展示室では、東日本大震災で被災した土地での建築に関する、隈研吾さんご本人や町長など町の方々のインタビュー動画もいくつか流れていて。
それらを拝見した時に、私は勝手にこう結論づけました。
「隈研吾さんは、建築界のヒーラーなんだ」と。
被災した土地、ダメージを受けた建物を、5原則に基づいた隈研吾建築でリニューアルさせ、癒していく。
苦痛や不幸を体験した土地で、再び棲まうことに向き合う時、隈研吾さんの建築デザインは、その土地の人たちの「ここでもう一度住む、生きる、暮らしていく」という決意を後押ししているように思えたのです。
建築といえども、さまざまな志向やデザインがある中で。
隈研吾さんの建築デザインというのは、人や土地、住まいを癒して、人として心地よく暮らしていくための舵取りをしてくれているように感じます。
梼原町の隈研吾建築作品を案内してくれるツアー企画もあります
隈研吾さんの建築について下調べしている中で、地元・高知の梼原町に、隈研吾さんの建築作品が6つもあることを知った私。
隈研吾さんの建築の方向性を変えたきっかけともなった、この梼原町の作品たちと、隈研吾建築に影響を受けた梼原町の風景や伝統的な建物を巡る旅もいいなぁ〜、と思っていたら。
今回、個展を見にきた際に、こんなチラシを頂き。↓
地元のガイドさんが案内してくれるツアーがあるんだ〜 )^o^(
とちょっと感動。
県外の方で、隈研吾建築作品に興味のある方は、利用されてみてはいかがでしょうか?
梼原町の6つの建築作品をガイド
ツアー時間 約2時間
参加者約10人で1人のガイドで、ガイド料3000円
現地での観光タクシー代は別途(現地までは自分でたどり着いてね)
申込みは2週間前前に
申込・ご連絡先:まろうど館(ゆすはら観光交流案内所)0889-65-1187(8:30〜17:00)
隈研吾さんの本やグッズも
展示を見終わって、美術館内のショップへ。
すると、隈研吾さんの本がたくさん。
こんなに本を書かれていたのですね。
ちなみに、隈研吾さん関連の本はこんなに。↓
そして、ショップには隈研吾さんの木材デザインを生かしたグッズも。
木材の積み木とかありました。
こんなのとか。↓
おしゃれな遊具。(^ ^) 贈り物に良さそうですね。
同じ形のピースなんだけど、組み立て方によって、無限に色んな形のオブジェが作れるみたい。
隈研吾さんの建築作品の魅力を改めて
建築作品を鑑賞するのは、今回の隈研吾さんの個展が初めての私。
全く未知の世界だったので、下調べから始めて。
すると、地元・高知の梼原町に隈研吾さんの建築作品が6つもあることを知って親近感が湧いて。
また、木材をふんだんに使用した優しい建築デザインなんだな〜、なんてことも分かり。
そして、今回実際に個展に足を運んで、国内外の作品の模型を見たり、5原則の解説を読んで。
雄大な自然の中に溶け込むように建てられた建物の様子とか、その土地の文化・風土を盛り込んだデザインによって、その地に自然と馴染む建物になってることなんかを感じ。
また、被災地での建築や損害を受けた建物の改築の際のインタビュー動画を拝見して。
美術館内のカフェで色んなことを振り返って、改めて思ったことは。
隈研吾さんの建築って「優しい建築・癒しの建築」なんだな〜、ってことと。
人が自然の中に溶け込む感じで、自由に生き生きと生きて暮らしていくための建築っていうのを、大切にしてるのかな〜、なんて思いました。
それなりに楽しませていただいた、今回の隈研吾さんの建築作品の鑑賞。
今度は、実際に梼原町に、隈研吾作品を巡るローカル旅に出かけたいと思います。(^ ^)
隈研吾展@高知県立美術館ページ
kayoko@おうちcafe
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